当事者研究とは、精神障害や発達障害のある方が自分の困りごとを「研究テーマ」にして、仲間と共に探求する回復のアプローチです。医療や福祉の専門家に「教わる」のではなく、当事者が主体となって自分の体験を言語化・分析していきます。
精神保健福祉士として長年支援に携わってきた立場から、当事者研究の意味・歴史・進め方・効果、そして就労継続支援B型での活用について詳しく解説します。
この記事を読むとわかること
- 当事者研究の定義と浦河べてるの家との関係
- 当事者研究の具体的な進め方とステップ
- 就労継続支援B型でどう活用できるか
- 当事者研究を始めるための実践的な方法
当事者研究とは|定義と基本的な考え方
当事者研究とは、「自分自身のことを自分たちで研究する」という取り組みです。精神障害、発達障害、依存症など、さまざまな困りごとを抱える方が、自分の「症状」や「苦労」を他者と共に研究テーマとして取り上げます。
重要なのは、「問題を解決する」のではなく、「自分の苦労のパターンを知る」ことです。専門家が答えを出すのではなく、当事者が仲間と一緒に自分の体験から学ぶプロセスが核心にあります。
精神保健福祉士として支援の現場で感じるのは、当事者研究が「症状に振り回される」状態から「自分の症状を観察・理解する」状態への転換を助ける力を持つことです。
当事者研究の歴史|浦河べてるの家から全国へ
当事者研究は、2001年頃に北海道の浦河町にある「浦河べてるの家」で生まれました。統合失調症など精神障害のある方たちが集まり、「自分の苦労を研究する」という実践が始まりです。
「幻声さんとの付き合い方研究」「爆発しないための研究」など、ユニークなテーマ名で自分の症状を客観視し、仲間と共有することで回復につなげていきました。この実践は全国の福祉事業所や医療機関に広がり、今では障害福祉の重要なアプローチの一つになっています。
現在では、東京大学先端科学技術研究センターの研究チームとも連携し、科学的な効果検証も進んでいます。
当事者研究の進め方|5つのステップ
当事者研究には決まった「正しい形」はありませんが、多くの実践では以下のステップが参考にされています。
- テーマを決める:自分が困っていること、繰り返すパターン、気になることをテーマにします。「人と話すと緊張して固まってしまう研究」など自由な題名でOKです。
- 体験を記録する:いつ、どんな状況で困ったかを日記や手帳に書き留めます。
- 仲間に話す:記録した体験を仲間や支援者の前で話します。批判なく聴いてもらえる環境が大切です。
- パターンを見つける:繰り返すきっかけや前兆を探します。「眠れていないとき」「人が多い場所で」など具体的に言語化します。
- 対処法を試す:見つかったパターンをもとに、自分に合った対処法を少しずつ試します。合わなければ研究を続けるスタンスが大切です。
就労継続支援B型での当事者研究の活用
就労継続支援B型の事業所では、当事者研究を日々の活動の一環として取り入れているところが増えています。集団でのグループワークや個別支援の中で活用されます。
具体的には、以下のような場面での実践が見られます。
- 週1回の「研究発表の時間」を設ける
- 作業中の気づきを「研究メモ」として記録する
- 個別支援計画の目標設定に当事者研究のテーマを組み込む
- 仲間同士でフィードバックし合うピアサポートと組み合わせる
当事者研究は、ピアサポートやリカバリーの考え方とも深くつながっています。自分を「病気の人」ではなく「自分の専門家」として捉え直すことで、就労への意欲や自己効力感が高まります。
当事者研究と他の支援アプローチとの比較
| 項目 | 当事者研究 | SST(社会生活技能訓練) | 個別支援計画 |
|---|---|---|---|
| 主体 | 当事者 | 支援者が設計 | 支援者と協働 |
| 目標 | 自己理解・言語化 | スキルの習得 | 生活・就労目標 |
| 形式 | グループまたは個人 | グループ訓練 | 個別面談 |
| 評価者 | 当事者自身 | 支援者・当事者 | 支援者・当事者 |
| 向いている方 | 自己探求に関心がある方 | 具体的スキルを身につけたい方 | 計画的に目標を立てたい方 |
どれか一つが「正解」ではなく、それぞれの特性に合わせて組み合わせることで効果が高まります。
当事者研究の効果と注意点
当事者研究の取り組みで報告されている効果には次のものがあります。
- 自己理解の深まり(「自分はこういうときに調子を崩す」がわかる)
- 再発の前兆に気づきやすくなる
- 仲間とのつながりが生まれる
- 「自分はおかしい」という自己否定感が減る
- 支援者との対話が深まる
一方で注意点もあります。当事者研究は医療的な治療法ではありません。症状が重い時期には無理に参加する必要はなく、主治医や支援者と相談しながら取り組むことが大切です。また、「正しい研究をしなければ」という焦りは必要ありません。
よくある質問(FAQ)
当事者研究は専門家でないとできませんか?
いいえ。当事者研究は当事者が主役であり、専門家の指導がなくても仲間同士で始めることができます。ただし、事業所や支援者のサポートがあるとより安心して取り組めます。
どんな障害のある方でも参加できますか?
精神障害、発達障害、依存症など幅広い方に活用されています。ただし、急性期や症状が不安定な時期は、主治医と相談して参加の可否を決めましょう。医療的な判断は必ず専門の医師にご相談ください。
一人でも当事者研究はできますか?
一人で日記を書いて自分の体験を振り返る「一人当事者研究」もあります。ただし、仲間や支援者に話すことで気づきが深まりやすいため、仲間と共に進めることをおすすめします。
当事者研究に費用はかかりますか?
就労継続支援B型などの福祉サービスの中で行う場合、別途費用はかかりません。書籍や研修に参加する場合は別途費用が必要です。
琉仁福祉会での当事者研究サポート
NPO法人琉仁福祉会が運営する就労継続支援B型(沖縄市・埼玉)では、当事者研究の考え方を取り入れた支援を行っています。利用者の方が自分の体験を「研究テーマ」として持ち、スタッフと一緒に考えていく場を大切にしています。
「自分のことをもっと知りたい」「繰り返すパターンをなんとかしたい」という方は、ぜひ一度ご相談ください。体験利用や事業所見学も受け付けています。
お問い合わせ・見学のご予約は、サイト内お問い合わせフォームよりお気軽にどうぞ。
まとめ
当事者研究とは、精神障害や発達障害のある方が自分の困りごとを仲間と共に研究する、主体的な回復のアプローチです。専門家に答えをもらうのではなく、自分が「自分の専門家」になっていく過程こそが大切です。
就労継続支援B型との組み合わせや、リカバリー・ピアサポートとの連携によって、より深い自己理解と社会参加への道が開けます。「まず知ることから始めたい」という方は、支援者やかかりつけの医師に相談してみてください。
お住まいの地域で相談できる窓口
就労継続支援B型をはじめとする障害福祉サービスの相談先は、お住まいの市区町村にあります。遠方の事業所を探すより、まず地元の窓口に当たるのが近道です。
- 市区町村の障がい福祉担当窓口 — 受給者証の申請、制度全般の相談
- 相談支援事業所 — サービス等利用計画の作成、事業所探しの相談
- 基幹相談支援センター — 地域の相談支援の中核となる機関
- 都道府県の精神保健福祉センター — こころの健康に関する専門相談
「どこに聞けばいいか分からない」という場合は、お住まいの市区町村の代表番号に電話して「障害福祉サービスについて相談したい」とお伝えください。担当窓口につないでもらえます。
沖縄・埼玉にお住まいの方へ
NPO法人琉仁福祉会では、沖縄県沖縄市と埼玉県川口市で就労継続支援B型事業所を運営しています。見学やご相談をご希望の方は 琉仁福祉会の公式サイト をご覧ください。お問い合わせフォーム からもご連絡いただけます。
